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勉強脳と研究脳 [学校生活(学問)]

 成績の良い学生が優秀な研究者になるとは限らない。優れた研究者が良い学生だったとは限らない。つまり「お勉強」と「研究」は別物だと思う。両者にまったく相関がないとは言わない。ただ、その相関はとても緩やかなものではないかと思う。

 イギリスではそのことを大学側も心得ていて、MPhil(高級修士とでも訳そうか)という学位を設けている。通常の修士は1年間だが、このMPhilは2年間ある。最初の1年は通常の修士と同じコースワークをして、次の1年間で本格的な研究というものに触れる。そこで研究者の適性があるかどうか判断する。適性があれば博士課程に進級し、ないと判断した場合あるいは社会に出たいと思った場合MPhilを貰って卒業する。

 僕は日本で医学の博士号を取ったが、大学院には行っていない。日本では「論文博士」といって、大学院に行かなくても査読のある雑誌で出版された論文があれば博士号を取れる。これは僕や僕の恩師のI先生のように社会人研究者にとってとても有難い制度で、これがなかったら在野の研究者はまったく日の目をみないことになってしまう。

 イギリスにはこういう「論文博士」の制度はない。だから普通の修士をやり、MPhilをやり、博士課程をやってようやく研究者の卵になる。それまで延々と大学にお金を払い続けることのできる財力のある人にしか研究者の道が開かれていないということになる。あるいは抜群に「お勉強」がよくできて奨学金をもらえる人か。いづれにせよ、研究者としての資質のある人の何割かが制度上の問題によって研究者になれないのである。

だからといって今の日本の医学博士の乱発も全くいいことだとは思わないのだが・・・・.

ちなみに医学の業界では博士号のことを「ティーテル」と呼ぶ。多分、Thesisのドイツ語版なんだと思う。お、そうだ、医学業界の面白いドイツ語文化について今度書こう。


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コメント 4

mabonasu

勉強の適性と研究の適性、たしかに違うかもしれないですね。
勉強が、学問分野での学習記憶活動なら、
研究は、学問分野での創作活動というべきでしょうか。
音楽における曲を聴く行為と、曲を作る行為との違いというか。
研究には、既存の成果では満足できず、さらにいいものを求めるという
ハングリー精神が必要不可欠というか。
右脳と左脳のどちらが優位かで適正が決まる、という考え方もありますが
どちらが優位でも、優れた研究者になることは可能だと思います。

現在の論文博士制度は、私もとてもいいものだと思います。
コースドクター以上に研究意欲が強い人が多いとも感じますし。
ただ、中央教育審議会の大学院部会というところが言うには
今後、論文博士をなくして、課程博士制度に一本化する方向でいくそうです。
博士号取得を目指す社会人に対しては「博士課程短期在学コース」と
いうものを設ける、ということですが、
博士取得のための研究が、大学教授が面倒を見られる範囲に
限定されるとすれば、かなりやりにくくなるかもしれないです(汗)。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050414-00000019-kyodo-soci
by mabonasu (2005-05-04 08:56) 

しょちょう

まぼなすさん
いい演奏家がいい作曲家になるとは限らないというのと同じですね。そうです、研究は創造的な活動です。
課程博士に一本化するというのはおそらく米国や英国での大学院教育の現状に合わせての変化でしょうね。それから大学としても博士課程の学生数を増やして利潤を得たいという思惑でしょう。
僕としては、論文博士の基準を今よりもっと厳しめに設定して、そしてこの制度を残すべきだと思います。仕事を辞めて大学院に入らないと博士号を取れないというのでは、きちんとした人生設計ができません。ただでさえ博士号取得者が就職できずにフリーターしているような状況なのに、博士号のために社会生活を捨てないといけないなんてもってのほかでしょう。
by しょちょう (2005-05-04 09:11) 

gutta

成績の良い学生が優秀な研究者になるとは限らない・・・全くその通りです!大学で成績がいまひとつだった友達が研究職でバリバリ論文を書きまくっています・・・研究者はセンスが必要で、それは努力でカバーできない部分もあるような気がします。
by gutta (2005-05-06 15:12) 

しょちょう

ぐったさん
そうですね。まったくそのとおりです。アインシュタインも決して大学の成績は上位のほうではなかったという話ですしね。
by しょちょう (2005-05-06 16:31) 

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